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夕刊フジ連載コラム「米混迷大統領選と日本」第3回「オバマ大統領が大企業寄りに“チェンジ”」
夕刊フジ8月1日号、インターネット版ZAKZAK8月2日号に、
藤井厳喜のアメリカ大統領ウォッチング「米混迷大統領選と日本」第3回「オバマ大統領が大企業寄りに“チェンジ”」が掲載されました。
【米混迷大統領選と日本】オバマ大統領が大企業寄りに“チェンジ”
オバマ大統領率いる民主党も鋭い内部対立を抱えている。最大の理由は、大統領自身が大企業寄りにチェンジしたことだ。前回選挙では、ウォールストリートへの金融規制強化をにおわせていたが、就任後は骨抜きにしてしまった。
また、TPPを推進する方針だが、米多国籍企業の利益増大をもたらす一方、労働組合やスモールビジネス、農民、一般勤労者などの利益を損なう。国内の銃規制を緩和し、兵器輸出を急拡大し、保守的ビジネス界での支持も広げている。何のことはない。「チェンジ」したのは大統領だったのである。
大企業寄りになったためか、すでに8600万ドルの選挙資金を集め、他の候補を引き離している。集金力は抜群だが、従来の支持者を裏切ったために、支持率は大きく低迷している。
オバマ大統領に最も期待したのは、黒人層をはじめ、貧困層や経済的に弱い立場の人々。健康保険の国民皆保険化法案は立法化したが、裏付けの予算措置は手つかずのまま。失業率は高止まりしている。
7月上旬に行われたブルームバーグ社の全米世論調査によれば、57%もの人々がオバマ大統領の経済運営全体に批判的。次期大統領選で確実に投票すると決めているのは、回答者のわずか30%で、絶対投票しないと答えた者は36%もいた。
経済政策ではパッとしないオバマ大統領だが、党内左派を喜ばせるための手は打っている。同性愛者の軍隊入隊を合法化したことや、マリフアナ・ビジネスの合法化推進だ。これはジョークで「グリーン(大麻)・レボリューション」と呼ばれている。
オバマ大統領が「救世主」として期待しているのが「第2次ITブーム」である。これはフェイスブックなどのIT産業を次々に上場させ、金融株式ブームを創り出そうという戦略である。
しかし、始まったばかりで、すでにITバブルには陰りが見え始めている。フェイスブックの上場は来年春とみられているが、最近のIT関連のIPOは前倒しの傾向にある。とても第2次ITバブルは、2012年11月の大統領選挙まではもちそうにもない。
外交軍事戦略でも、オバマ大統領は大転換を行いつつある。アフガニスタンとイラクからは撤退する一方、チャイナ(中国)とは正面から対立しようとしている。対テロ戦争の泥沼から脱却することにより、アメリカはようやく真の脅威であるチャイナと対峙できるようになった。
5月1日のビン・ラディン殺害で、米=パキスタン関係は破綻したが、それはパキスタンと同盟関係にあるチャイナとの関係が決定的な対立状態になることをも意味した。つまり「米中新冷戦」が開始されたのである。この事実をしっかり認識しないと、日本はとんでもない間違いを犯すことになる。
(国際政治学者・藤井厳喜)=連載完結