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『イチローと村上春樹は、いつビートルズを聴いたのか―サブカルチャーから見た戦後日本』

投稿日:2009,12,09

同世代の二人が語る、軽妙洒脱な戦後文化論である。

西村幸祐さんが、昭和27年生まれで、杉原さんが昭和26年生まれ。
私は昭和27年生まれであり、全くの同世代なので、共感する部分も多く、本書は一気に読み終わってしまった。

特に、昭和26、7年プラスマイナス5年に産まれた人々には、お薦めしたい好著である。

私は、村上春喜は全く読んでいないし、小説全般に興味が無いので、その部分はやや迂遠に感じた。
しかし、様々な文化現象を同時代に体験しているので、二人の論の展開が、クラス会での会話のように面白くまた、懐かしいものに感じられた。

ただ、二人とも文化現象を見るに際しての冷徹な眼力があり、POPカルチャーを論じても、単なる時の風俗論や思い出話に流されない内容がある。
例えば、アメリカの音楽が世界的に流行るのは、アメリカの軍事力・経済力が強大であるからで、ヒッピー文化の「ラブ&ピース」と言えどもその例外ではない、と論じるあたりなど、中々に硬派の議論である。
杉原さんは、グローバルに売れる大衆文化になる為には、とにかく先ずアメリカで受容されなければ不可能である、と力説している。
冷徹なレアリズムである。

一つだけ、体験的な話題に触れるとすれば、ビートルズの日本公演の記憶があげられる。
ビートルズの日本公演をどのように受け止めたか、という事はおそらく我々の世代のものには一つの大きなメルクマールになるはずである。

西村さんも杉原さんもそれぞれに、ビートルズに憧れ、興奮してその来日を歓迎したようだ。
私は、全く逆で、ビートルズの如き、軽佻浮薄な音楽グループは、日本などに来て欲しくない、と只管に忌み嫌っていた記憶がある。
当時、フランスは、予想される過度の混乱を嫌って、ビートルズの来演を拒否した事がある。
当時のうるさ型の評論家である小濱利得氏と細川隆元氏は、二人の出演する日曜日・朝の『時事放談』で、ビートルズの来日など、拒否すべきではないか、と憎まれ口を聞いて若い人から散々に嫌われていた。
『時事放談』のファンであった私は、この二人のご老人の意見に全く同感であった。

同世代と言っても、これほどに立場や感受性は違っていたわけである。
しかし、ビートルズ来日にどのように反応したかは、その人のその後の人生にもある一定の影響を与える出来事であったに違いない。

ちなみに、私は八年間のアメリカ留学時代にカセット・テープで持って行った古典落語や、廣澤虎造の浪曲や、三波春夫の長編歌謡浪曲を只管、聞きまくっていた。



それが私の大衆文化的感受性の根幹の一部を成している事は確かである。

この本、『イチローと村上春樹は、いつビートルズを聴いたのか――サブカルチャーから見た戦後日本』を読んで、西村幸祐さんと文化的現象についての、そして体験談についての対談をしたくなった。

やがて、機会を見て是非実現をさせたいと思っている。

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ちなみに、この本の表紙は、青一色で、こんなにユニークでオシャレな本の装丁を見たのは初めてである。