10月18日の丹羽春喜先生の、講演内容で言い忘れた部分があるので今日はそれを補足しておきたい。
当日の講義で、丹羽先生が指摘されたポイントの1つは、為替レートが、低開発国にとって経済上のハンディ・キャップとして必要であるという点であった。
共通通貨にしてしまうと、発展を目指す低開発国がこのハンディ・キャップを巧く使えなくなるので、共通通貨は低開発国にとって著しく不利なものである。
これは簡単なことで、発展途上国が輸出を伸ばそうとする時に、自国通貨の為替レートを低めに設定して、輸出進行に成功するという事がよくある。
この安めの為替レートが、経済体質の弱い発展途上国にとっては、経済競争上の一種のハンディ・キャップとなって経済を助けているのである。
完全なフロート制ならば、貿易赤字国の通貨は、自然に弱くなるから、このハンディ・キャップをうまく利用して、貿易赤字を解消する事が自動的に出来るように為替レートが自動的な調節機能をもってくれている訳である。
逆に、人為的な理由によって高すぎる為替レートを押し付けられてしまった国では、産業が壊滅的な打撃を受ける事がある。
最もよい例が、東西ドイツ統一後の東ドイツ経済である。
東西ドイツがそれぞれ独立している時、公式レートでは、1西ドイツ・マルクは、1東ドイツ・マルクであった。
しかし、実力では、東ドイツ・マルクは西ドイツ・マルクの数分の一くらいの価値しかなかった、と言われている。
東西ドイツ統一のチャンスが急速に訪れた時、時の西ドイツのコール首相は、東ドイツ国民の要求を入れて、1西ドイツマルク=1東ドイツマルクという公式レートを維持したまま、統一を完了した。
短期的にはこれは東ドイツ国民に大いに歓迎された措置であった。
しかし、長期的にはこの過大に評価された東ドイツマルクが、東ドイツ経済に壊滅的な打撃を与える事となった。
要するに、東ドイツで生産される製品は、競争力が無いにもかかわらず、その表面上の価格は本来の数倍にも評価されてしまったのである。
競争力がないので、農業を含む、あらゆる産業が停滞してしまったそうである。
もし、政治的には東西ドイツを統合しても、東西ドイツ間に実力に見合った為替レートを設定していれば、東ドイツの産業は、壊滅的な打撃を受けずに済んだはずである。
多くの低開発国にとって、このように、為替レートは自国の低い競争力を補うハンディ・キャップの意味を持っている。
正確にいえば、為替レートの高い先進国が、ハンディ・キャップを負い、為替レートの低さは事実上、低開発国への輸出補助金のような役割を果たしている訳である。
東アジア共通通貨の導入は、このような低開発国へのハンディ・キャップ効果を全て奪ってしまう事になる。
例えば、インドネシアのような国の軽工業は、シナの人民元に対するより安い為替レートを設定しなければ、シナの軽工業に全滅させられてしまうであろう。
各国が、自国産業の防衛をし、経済をマネージメントする為に、各国が独自の通貨をもつという事は極めて重要である。
低開発国に限らず、先進国においても、自国経済を防衛する為に為替レートは極めて重要な政策手段である。
この政策手段を放棄するとは、国家が国民生活を守るための主権の一部を放棄するに等しい。
ヨーロッパのように、生活レベルや産業発展のレベルが極めて近くなってきた場合においては、通貨統合はその他のメリットを考えれば、合理的な判断となるかもしれない。
しかし、そのヨーロッパですら、共通通貨の導入と共通金融政策の実施は地域ごとにかなりのひずみを生んでいる。
東アジアのように、経済発展レベルが大きく異なる地域において、共通通貨を導入するということは、百害あって一利なき愚かな政策である。
======【お知らせ】=================
11月、12月と続けて、台湾のもつグローバルな重要性を指摘する講演会、及びシンポジウムが続きます。
11月7日は、台湾研究フォーラム(台湾研究論壇)の第128回定例会で、以下のテーマで講演させて頂きます。
演題: 無制限戦争時代における台湾の地位 ― グローバル地政学から見た台湾独立
日時: 11月7日 (土) 午後6時?8時
場所: 文京区民センター2-A
電話:03(3814)6731
住所: 東京都文京区本郷4-15-14
※文京シビックのはす向かい
都営三田線・大江戸線「春日駅」徒歩1分
東京メトロ丸の内線・南北線「後楽園駅」徒歩1分
JR「水道橋駅」徒歩10分
参加費: 会員500円、一般1,000円
懇親会: 閉会後、会場付近にて。(会費3,500円、学生1,000円)
申込み: 11月6日までに下記へ。
E-mail:taiwan_kenkyu_forum@yahoo.co.jp
FAX: 03-3868-2101
尚、この日のこの会場にて、最新刊『NHK捏造事件と無制限戦争の時代』先行発売会が行われます。
続いて、約1カ月後の12月には、CFG主催シンポジウム第2回目として、以下のテーマで、特別ゲストに台湾の現実を最もよく知る二人の専門家をお招きして、前回と同様、ジャーナリストの山村明義さんと私が司会進行役となり、以下のテーマで勉強会を開催します。
演題: 『アジアの無制限戦争2.0 情報戦争最前線』 ― クリティカル・パス(Critical Path)としての台湾
日時: 12月6日 午後1時頃から6時頃迄を予定。
場所: 都内某所にて(決定次第、発表予定)
共同主催者 : 山村明義氏 (ジャーナリスト)
メイン・ゲスト: 林建良氏 (『台湾の声』編集長・日本李登輝友の会常務理事・台湾団結連盟日本代表)
永山英樹氏 (台湾研究フォーラム会長・日本李登輝友の会理事)
台湾は単に、東アジアの運命を左右する重要な地位を占めているのみならず、恐らく今後、100年単位の世界の未来を決定する重要な地政学的な位置にあります。この事を台湾問題の最高の専門家である、林建良さんと永山英樹さんをメイン・ゲストにして、あらゆる視点から徹底的に時間の制約を離れて、講究してみたいと思います。
台湾独立支持派のサプライズ・ゲストも予定しています。
此方は、詳細が決まり次第、改めてお知らせ致します。