西尾幹二先生が主催されている「路の会」の月例会に出席。
今日の講師は異例の抜擢で、普段は幹事役の徳間書店編集部の力石定一さんがヨーロッパ美術史の一側面について話した。
力石さんは、55歳の時に、突然、ある偶然で絵画鑑賞に目がひらいたそうで、それ以来、近代西洋絵画を自分なりの解釈で、勉強してきたという。
今日のテーマは、「フランダースからイタリアへ」という事で、ベルギー、オランダの北方のルネサンス絵画が、イタリアのルネサンス絵画に与えた影響について、個人的体験も踏まえながら、大変面白い話をしてくれた。
日本人は一般的に、イタリアのルネサンスが北ヨーロッパに影響を与えたとばかり、思っているが、実は宗教改革の影響を受けた、フランダース地方がイタリアのルネサンス絵画に与えた影響も見逃せないものだという。
この点は、絵画史の素人の私には大変勉強になったが、今日の参加者の一人、美術史の専門家の田中英道先生によれば、このような知見は専門家の間では既に確立された知識なのだそうである。
しかし、美術館での個々の絵画との出会いによる感動を情熱を込めて語る、力石さんの話には、大いに心を動かされた。
それは評論というよりも、個人の美的な体験史といった話であった。
力石さんは特に、ペーター・ブリューゲルの絵画から受けた感動を、そのユニークな解釈を込めて力強く語ってくれた。
綺麗な絵画のプリントアウトされた資料を見ながらの楽しいレクチャーと質疑討論であった。
ブリューゲルの絵画は、寓意を込めたものが多く、様々な解釈が可能であり、長く見ていて飽きない。
知的な迷路にも似た、作品が多い。
特に私は、本日配られた資料の中にもあった、「死の勝利(1562)」に強く惹かれている。
The Triumph of Death 死の勝利 1562年頃 プラド美術館
この絵は、第一次、第二次大戦はおろか、21世紀の無制限戦争の時代に到る、近代の行く末というものを既に予見したような恐ろしい終末論的な絵画である。
そのような具合で、本日は、美術論議に花が咲いた楽しい「路の会」であった。