ドル安が止まらない。
週明け以降、1ドル90円の壁を越えて、1ドル80円台の円高ドル安相場が継続するだろう。
私は、約1年前の昨年のリーマン・ショック発生の時点で、円ドル関係は基本的にドル安による円高が基調トレンドとなり、やがて1ドル79円75銭の第二次大戦後の円高の記録も更に更新されるだろうと予測した。
それ故に、今回のドル安についても全く驚いてはいないが、マクロ的な視点からその理由をもう一度指摘しておきたいと思う。
日本でも鳩山民主党政権の誕生により、財政赤字は拡大する傾向にある。
にも関らず、ドルが円を上回って、さらに弱くなりつつある、というのが現在のトレンドである。
米オバマ政権は、第二の景気刺激策を発動せざるを得ないだろう。
それだけ失業者は増大しつつあり、米景気は低落傾向にある。
つまり、アメリカの財政赤字は更に拡大し、ドルは益々脆弱な通過になりつつあるのである。
現在、オバマ大統領は健康保険改革にその政治力を投入している。
共和党を中心に反対派も根強い抵抗を見せている。
しかしこれは、オバマ新大統領の選挙戦中の最重要な公約の一つであり、彼はこの政策を何としても実現せざるを得ない。
何らかの妥協を伴っても、国民皆保険を実現するであろう。
となれば、政府の財政負担が膨大になる事は明白である。
これもまた、ドル安の隠れた理由の1つになっている。
万が一、彼が健康保険の国民皆保険化に失敗すれば、オバマ政権の求心力は著しく低下し、2010年秋の中間選挙での民主党敗北は必至である。
こうなれば、こうなったで、それもまたドル安の原因の一つになる。
『ドンと来い!大恐慌
』でも指摘したように、ドルは、世界の基軸通貨の玉座から現在滑り落ちつつある。
不況に苦しむ日本の円よりも、ドルが弱体化しているのは此の為である。
今後、注目すべきは金価格の上昇である。
ニューヨークの金先物市場では、先週既に、金1オンスが1000ドルを突破し、史上最高値を記録した。
今後長期的に、1オンス1000ドル以上の相場が到来するものと予測している。
何故なら、この金価格上昇は、ドルの基軸通貨からの退位の当然の結果だからである。
例えて言えば、「ドルの基軸通貨からの退位」と「金のドル建て価格の上昇」は、効果の両面のような現象である。
勿論、短期的な価格の上下はあるだろうが、金価格が長期的に上昇トレンドにある事は確かである。
日本も今後、政府でも民間でも、金地金の貯蔵を増大させる必要があるだろう。
世界一の金含有率とも言われる菱刈鉱山(住友金属鉱山・鹿児島県)の国策による積極的開発も考慮すべきであろう。
菱刈鉱山では、1トンあたりの鉱石に含まれる金の含有量は、平均約60グラムである。
世界一の金産出国、南アフリカでは、1トンあたりの金含有量は約6グラムであるから、菱刈鉱山の金鉱の金含有率が如何に高品位であるかが分かる。
現在、日本の金産出量の90%を菱刈鉱山が占めている。
同鉱山の年間産出量は、約7トンだが、従来のペースで生産し続けたとしても、まだ40年以上は持つといわれている。
(拙著『『「破綻国家」希望の戦略』
』P244-45より 2005年6月発刊)