シリーズ 『共和制革命を狙う人々―大統領制、道州制を推進する人々の陰謀と偽善のカラクリ』 第1回
我が国において、時折、「大統領制」の採用が話題になる。
最近では、幸福の科学が作った「幸福実現党」の憲法草案が大統領制を採用するということで話題になっている。
結論から言うならば、日本のような体制をとる国においては、原理的に大統領制の採用は不可能である。
大統領制がよいとか、悪いとかいう以前に、政治学的にいって、大統領制を採用することが不可能なのである。
以下、このことを簡単に説明してみたい。
大統領(President)とは、「選挙で選ばれた共和国の元首」のことである。
それでは、日本はそもそも共和国なのであろうか?
日本は、立憲君主制(Constitutional Monarchy)の国であり、共和制の国ではない。
共和制とは、王様のいない国のことである。
日本の天皇は、西洋の王(King)とは確かに本質的に異なる存在である。
西洋の王(King)とは、日本でいえば、将軍に類似した存在である。
武力で天下を制覇し、その子孫が王として一国に君臨している。
日本の天皇は、徳川家や足利家のような将軍家を遥かに凌駕する権威をもった王以上の存在である。
しかし、国家の体制の分類上は、日本が立憲君主制であるのは言うまでもなく明らかである。
日本が共和制でない以上、大統領制はその定義からして原理的に採用することは不可能なのである。
もっとも、英語の世界で最も権威ある辞書と呼ばれるOxford Dictionary of English (ODE)によれば、「President」とは、「the elected head of a republican state.」と定義してある。
つまり、「選挙で選出されたところの元首」という意味である。
ちなみに「head of a state.」とは、「元首」という意味である。
国家とか政治に関わりのない場合、presidentとは、「さまざまな組織の最高責任者」という程の意味である。
世界の大統領も、大体2種類に分けて考えることができる。
第1種の大統領は、フランスやアメリカの大統領のように、実質的に国家権力を行使する大統領である。
大統領はこの場合、行政府の長であり、国軍の最高司令官であり、同時に元首でもある。
第2種の大統領は、ドイツやアイスランドの大統領のように、実質的な国家権力を持たない、名目的な国家元首としての大統領である。
この種の大統領は、国民全体によって選ばれるが、実質的な政治権力からは切り離され、国家の名目的な代表者(元首)として、象徴的にあるいは儀式的に機能するだけの存在である。
いずれにせよ、大統領は共和国(世襲的王権の存在しない国)において、国民一般が選び出す共和国のTOPである。
世界中のあらゆる国において、世襲的王政の存在する国では、大統領は存在していない。
これには1つの例外もない。
王政の存在する国において、実質的な政治の最高権力者は「総理大臣」である。
王政のある国においては、議院内閣制がとられ、議会が行政の最高責任者である首相を選出する。
首相は行政府の最高責任者であるが、元首ではない。
立憲君主制を採っているイギリスでもスウェーデンでも、オランダでも、ノルウェーでも、このことには1つの例外も存在しない。
同じく、立憲君主制を採っている日本でも、議院内閣制こそがデモクラシーを前提とした場合、唯一の可能な政治体制であり、大統領制の採用はあり得ない。
これは、原理的に、歴史的に、常識的に言って、あり得ないのである。
もし、日本において大統領制を採用するというならば、それは、ただ一つの可能性しかあり得ない。
それは、君主制を打倒し、排除する共和制を導入する場合のみである。
日本国民が、それを望まない以上、大統領制に関する議論は全くのナンセンスであり、如何なる大統領制であれ、全く議論に値しないということができる。
大統領制そのものではないが、かつての中曽根首相のように、「首相公選制」による「大統領的首相」の必要を説くものもいる。
あらゆる改革を進める為には、政治権力の集中と強力な指導者が必要であり、その為に国民の直接選挙による大統領的首相の必要を主張するのであろう。
その気分は、僅かながら理解はできるが、首相は首相であり、大統領は大統領であり、大統領的首相などという鵺のような存在は世界中見渡してもこれを発見することはできない。
国民全体によって、一人の政治家が国の最高権力者として選出されてしまえば、その存在は元首に極めて近いものにならざるを得ない。
そのような存在が元首たる君主と並列する事は国家の体制に矛盾を産むことになる。
それ故に、国民全体によって選ばれる大統領は、存在しても、国民全体によって選ばれる首相は存在しえないのである。
(共和国においては、大統領の下に首相が存在する事がある。)
唯一、首相公選制が存在した国家があった。
それは、イスラエルである。
小党乱立気味のイスラエルにおいて、強力なリーダーシップを期待して首相公選制が一時採用されたが、これもやがて放棄され、今や首相公選を採用している国家はひとつも存在しない。
ちなみにイスラエルは、共和制国家なので名目的元首としての大統領が、国民全体から選出され、この大統領が様々な政治的要素を比較考量し、次期内閣総理大臣を指名する事になっている。
別の言い方をすれば、安定した内閣を組織できそうな政治家に組閣のチャンスを与え、それが不可能な場合は、また別の政治家にチャンスを与えるのである。
以上のように、一般国民による首相の直接選挙すらやっている国は世界中、一つも存在しないのである。
このような世界の常識を知らずして、大統領制の採用を唱えることはあまりに無知な行為なのではないだろうか?
もし、それが無知な行為でないとすれば、大統領制を唱えるものは、日本において皇室を否定する革命を行おうとする者である。
※ 次回は、
シリーズ 『共和制革命を狙う人々』 第2回 「地方主権論と共和制革命」 に続く。