書店には、数多くのオバマ本が溢れかえっている。
写真やら演説集やらも、人目を引く。
しかし、オバマ自身の著作を含む、数多くのオバマ本の中から、ただ1冊を推薦するとするならば、私はこの本を薦めたい。
『オバマの孤独』
シェルビー・スティール著 (青志社) 1200円+税
著者シェルビー・スティールは、保守派の黒人論客として名高い。
1946年生まれで、現在は保守派のシンクタンクとして名高い、スタンフォード大学のフーバー研究所の研究員である。
オバマとスティールの共通点は2つある。
1つは、シカゴ出身である事。
2番目は、黒人と白人の混血であるという事だ。
日本のマスコミは、オバマがアメリカの初代黒人大統領であるという事で、はしゃいでいる。
しかし、彼らはアメリカ社会において、黒人であるということが何を意味しているかを全く分かっていないし、それ故に、初代黒人大統領が持つ、真の意味についても全くの無知である。
シェルビー・スティールが、再確認しているのは、一滴でも黒人の血が混じった混血は、黒人であると見なされるというアメリカ社会の人種差別主義である。
オバマも、スティールも、日本人の視点から言えば、白人と黒人の混血である。
しかし、混血は、黒人なのである。
これを「一滴の血」のルールと呼ぶ。
そのルールの持つ、過酷さが、日本人の大部分には全く理解できていない。
オバマは、多くの成功した黒人がそうであるように、人種などというものが、アメリカ社会における成功の為には決定的な障害ではないということを明言し、また、それを身をもって証明してきた。
しかしこのような態度は、人種差別の過去を悔いる白人には大いに賞賛されるが、寧ろ、黒人側から根強い反発を受ける。
この本の中でもスティールは、オバマが白人に過去の人種差別に対する免罪符を与える存在であると喝破している。
シェルビー・スティールは次のように指摘する。
『われわれ黒人は本能的に、オバマが取引人であることを知っている。』
『オバマは白人から何かを受け取る前に、白人たちに免罪符を授ける。』(P167)
この著者の観点からすると、
オバマが、白人層の票をひきつけた事は当然である。
しかしオバマは、白人に免罪符を与える事で、寧ろ、古いタイプの黒人から『十分に黒人らしくない』と批判されてきた。
この著者の、指摘が正しいとするならば、オバマの奇跡は、白人票を取った事ではなく、寧ろ、黒人票を取り逃がさなかった事である。
かように、人種問題とは、人々の心に複雑かつ深刻な漆黒を課している。
前文、まえがきを含め、183ページの小さな本であるが、人種問題の観点からオバマ政権を理解しようとするものには必読の書であろう。
オバマ政権の経済政策に関しては、著者は失敗を予測している。(『ドンと来い!大恐慌』P123-126)
参照;
『オバマ政権の本質と今後』(月刊日本4月号、藤井厳喜論文)